
葉酸と母子の健康を考える会
第1回マスコミセミナー セミナーレポート
「現代女性の妊娠・出産リスクとその低減に果たす葉酸の役割と可能性」
【セミナー内容】
■「葉酸と母子の健康を考える会 設立の目的と課題」
葉酸と母子の健康を考える会発起人
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授
ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)教授 大井 静雄
■講演「現代女性の妊娠・出産リスク、そのリスク低減に対する葉酸の役割と可能性
B群ビタミンと妊娠転帰への影響」
国立保健医療科学院生涯保健部母子保健室室長 瀧本 秀美
■講演「世界的視野に見た葉酸摂取および脳・脊髄奇形発症の現状」
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授
ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)教授 大井 静雄
■講演「葉酸たまごの開発」
ファーマフーズ研究開発部主席研究員 杉山 文美
■「今後の活動について」
葉酸と母子の健康を考える会事務局 岩城 紀子
「葉酸と母子の健康を考える会」は、必須栄養素である「葉酸」が、現代女性と子どもの健康に果たす役割について、広く情報を発信していくことを目的に設立されました。
その活動の一環として、2007年3月14日に、「現代女性の妊娠・出産リスクとそのリスク低減に果たす葉酸の役割と可能性」と題し、プレスセミナーを開催いたしました(於:ホテルオークラ東京)。
国立保健医療科学院生涯保健部母子保健室室長の瀧本秀美氏による、講演「現代女性の妊娠・出産リスクとそのリスク低減に果たす葉酸の役割と可能性 B群ビタミンと妊娠転帰への影響」では、低体重で生まれる赤ちゃんが増加している事実と、それが妊娠可能な若い女性と妊婦自身の栄養摂取状況の変化、特に葉酸不足に深く関係しているという研究結果のご講演をいただきました。
続いて本会発起人で東京慈恵会医科大学脳神経外科教授、ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)脳神経外科教授の大井静雄氏による、講演「世界的視野に見た葉酸摂取および脳・脊髄奇形発症の現状」では、小児脳神経外科、二分脊椎治療の第一人者として、二分脊椎のリスク低減における葉酸の役割と日本で葉酸摂取の政策が進んでいない現況についてご報告いただきました。
さらに株式会社ファーマフーズ研究開発部主席研究員の杉山文美氏の講演「葉酸たまごの開発」では、葉酸を効果的に摂取できる食品の1つである“葉酸たまご”について、その高い熱安定性などの機能性について講演いただきました。
最後に、本会事務局の岩城紀子より、葉酸入りの食品が簡単に手にとれる米国の環境の紹介と日本における葉酸認知の拡大・出産リスクの低減への意気込みをお話し、盛会裡に終了いたしました。
本ニュースレターは、瀧本秀美先生、大井静雄先生、杉山文美氏によるご講演を中心に、当日のセミナー内容をまとめたものです。
■「葉酸と母子の健康を考える会 設立の目的と課題」
葉酸と母子の健康を考える会発起人
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授
ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)教授 大井 静雄
1.設立趣旨
葉酸摂取の重要性を広めていく ~二分脊椎の予防~
胎児の成長過程で背骨が十分に発達せず、下半身麻痺などの神経障害を起こす原因不明の病気が二分脊椎である。この病気は、葉酸の摂取によってかなりの割合で予防できる。これを広く社会に浸透させるために、“葉酸と母子の健康を考える会”を設立した。(図1)
先進諸国では日に日に減少してきている無脳症、二分脊椎といった疾患が、日本においては徐々に増えている。2003年に重い二分脊椎症と診断された新生児の割合は0.06%で、10年前の1.5倍である。(図2)
この疾患に関する研究は世界中で進んでいて、原因病態として緑黄色野菜に含まれるビタミンの一種・葉酸が果たす役割が極めて重要だということがわかっている。日本では2000年12月に厚生労働省が、都道府県、政令市、特別区、関係学会等の諸団体に通知を行い、また2002年1月15日、葉酸摂取が必要であると母子手帳に記入された。しかし、それ以降も葉酸の摂取率は伸びておらず、二分脊椎の出生頻度は上昇し続けている。日本が、予防医学の面で大きく遅れをとっている現状がある。(図3)
このようなことから、必須栄養素である葉酸の認知を、妊婦そして全国民へと、さらに徹底するべく、フォローアップしていきたい。そのためには、医療・医学の研究のレベルだけではなく、広い領域の関係各位の方々からの協力が必要ということで、この会を発足した。
2.葉酸摂取状況
世界のスタンダードと日本の現状
二分脊椎の予防効果があるとして、諸外国では葉酸摂取の政策が積極的に推進されている。現在、世界共通のスタンダードとして、妊娠の可能性がある女性の葉酸必要摂取量は、400µg(マイクログラム、0.4㎎)と提示されている。(図4)
しかし、妊娠予備軍である日本の女子大生の葉酸摂取状況をデータで見ると、そのほとんどが世界標準の400µgには達していない。そればかりか、65%が200µgにも満たない現状がある。 (図5)
図5 ビタミン広報センター,1999:
女子大学生のビタミン摂取状況について
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3.課題の提示
葉酸摂取の認識を高める ~3つの課題~
“葉酸と母子の健康を考える会”で実施した最新の調査からも現状の課題が明らかとなった。この結果なども踏まえて、この第1回のプレスセミナーで3つの課題を提示する。
①妊娠の可能性のある女性たちの認知・理解度の不足(未婚女性40%、既婚女性54%が認知)。
②2000年の厚生労働省の呼びかけ以降、妊婦の認知率(75%)は向上しているが、実際の摂取率(25%)は低く、一般の方の認識率も低い。
③産婦人科以外の医療従事者の認識度(具体的な働きまで理解している方が63%)、産婦人科も含めた医療現場での積極的な指導・実施率(36%)もあまり高くはない。(図6)
■講演「現代女性の妊娠・出産リスク、そのリスク低減に対する葉酸の役割と可能性
B群ビタミンと妊娠転帰への影響」
国立保健医療科学院生涯保健部母子保健室室長 瀧本 秀美
1.出生に関する状況の変化について
低出生体重児が全出産の1割を占めるまでに増加
日本では、少子化の影響で出生数はずっと低下傾向であるにもかかわらず、小さく生まれる赤ちゃんの割合は増加の一途をたどっている。生まれたときの体重が2500g未満の子供は低出生体重児と呼ばれる。
1980年には6%程度だった低出生体重児が、現在では10%近くにまで増えている。体重だけを基準にしているので、妊娠37週より早い早産でも、それ以降であっても体重の小さい子供が含まれているが、男女とも同じように平均出生体重が低下傾向にあり、低出生体重児の割合も同じように増加している。(図7)
母体の背景と低出生体重児との関係
厚生労働省の全国調査から、1980~2000年の母体の背景の変化と低出生体重児との関係を見ることができる。まず、35歳以上の母親が増加している。身長はこの20年間でどんどん高くなっており、発育期のときに十分に栄養摂取されていたことが見て取れる。2000年の調査にのみ得られている妊娠前のBMI(ボディマスインデックス・体格指数)は現在の若い女性のほぼ平均に近い値である。また、初産の数は顕著に増加しており、双子以上の子供の割合も倍近くへ。そして、妊娠中の喫煙はおよそ2倍に増えているという現状がある。
一方で、胎児の平均在胎期間は短くなってきており、早産児、低出生体重児の割合が顕著に増加しているのがわかる。
喫煙、初産の増加との因果関係は見つからない
母親が喫煙者の場合と非喫煙者の場合を比べると、喫煙者で低出生体重児を出産する割合は高いが、90年でも2000年でもその割合に変化はあまりない。一方で、非喫煙者の間で低出生体重児を出産する割合が増えている。また、初産か出産経験があるかを比較すると、双方で低出生体重児の出産が増加している。つまり、単に喫煙する妊婦の増加、あるいは初産の増加が低出生体重児の割合が増えた原因ではないと考えられる。(図8)
赤ちゃんがお腹にいた期間別に見たデータを比較すると、37週未満の早産、37~39週の通常十分な在胎週数のお産、40~41週の予定日近辺の出産、いずれの場合でも、平均出生体重は減ってきている。また、予定日の近くでの出産では低出生体重児の割合は変わっていないが、37~39週の本来なら十分発育した子供を出産できるはずの期間で、低出生体重児の割合が増えている。(図9)
2.日本の妊娠可能年齢女性に起きている変化
20代女性のほぼ4人に1人が「やせ」ている
厚生労働省が毎年11月に実施している国民栄養調査によると、10代後半、20、30代女性の身長の平均値は、1976年から2000年までの25年間で著しく伸びている。これは異なる調査でも同じような傾向が出ている。かつては身長に年代差があったが、現在ではほとんど見られない。一方、身長がかなり伸びているにもかかわらず、体重はそれほど増えてはいない。
10代後半、20代前・後半の平均BMIは、1976年から徐々に減っている。「やせ」(BMI18.5未満)の割合はどの年代でも増え、特に20歳代では4人に1人に迫る。(図10)
国民栄養調査によると、20代の女性における摂取エネルギー量は減ってきている。全体的にあまり食べなくなってきていると言える。(図11)
3.妊婦と葉酸について
妊婦と葉酸栄養に関する簡単な歴史
ビタミンB群の一つである葉酸の歴史は、1931年にさかのぼる。イースト抽出物を使って妊婦の巨赤芽球性貧血を治療したとの報告から、イースト抽出物の中に貧血に有効な成分があるということで研究が始まった。そして、米国では1970年には1日に200~400µgの葉酸を付加するように推奨している。その後、大規模疫学研究で受胎前後の葉酸投与によって、胎児の神経管閉鎖障害が予防されることが明らかとなった。そして、90年代の後半からは米国を始めとする国々で穀類への葉酸添加が始まったという経緯がある。(図12)
細胞の増殖に関わる栄養素・葉酸
葉酸は細胞の増殖に関わる非常に重要な栄養素である。細胞の中で、ホモシステイン*をメチオニン**に変換するときにテトラハイドロフォーレイト(葉酸の誘導体***)を必要とする。特に妊娠中は胎児の発育に伴って細胞増殖が活発になるため、葉酸の要求量が増大するのである。そのために、妊娠週数が進むにつれて、血清中の葉酸値が低下すると言われている。葉酸が体内で有効に用いられるためには、適切な量のビタミンB12も必要となる。(図13)
*ホモシステインとは・・・新たな動脈硬化性疾患の危険因子として注目されているアミノ酸。
**メチオニンとは・・・・・・血液中のコレステロール値を下げることで知られるアミノ酸
**誘導体とは・・・・・・・・主に有機化合物で、一つの化合物の分子構造の小部分が変化してできた化合物。基本構造はそのままで、一部が他の原子団と置き換わったもの。
妊娠中に特徴的な葉酸動態
一般的に、血清葉酸値が低下すると、ホモシステインがメチオニンに変化されないために、ホモシステイン値は上昇する。ただし、妊娠中は異なる機構が働いている。妊婦の血清葉酸値が低下していても血中のホモシステイン値は上がらず、むしろ低下するのである。これは、赤ちゃんがホモシステインをも取り込んでいるからではないかと言われているが、まだ妊娠中の胎内動態については十分わかっていない。(図14)
妊婦の葉酸摂取と低出生体重児との関係
妊婦79名の協力による、妊娠初期・中期・後期にわたって、栄養素摂取状況と血中のバイオマーカーの値を調査し、縦断的に見て、研究を行った*。
摂取エネルギー量が、妊娠初期のみならず、中期・後期になっても目標摂取量をかなり下回っている。また、葉酸、鉄、カルシウムともに、厚生労働省が示している食事摂取基準の目標摂取量とは程遠い結果である。(図15)
測定の2~3カ月前ぐらいからの葉酸栄養状態の推定ができる赤血球中の葉酸値は、初期は高いが、妊娠が進行するに従って下がる。もう少し短期的なマーカーである血清の葉酸値も初期は高いが、だんだん下がっている。妊娠が進むにつれて葉酸が不足がちになるということが、ここから推測される。また、妊娠中でありながら、中期から後期にかけてのホモシステイン値の増加が見られる。これは、ホモシステインの代謝にかかわる栄養素(葉酸・ビタミンB12等)の不足によると考えられる。(図16)
さらに、妊娠中期から後期に、ホモシステイン値の上昇が著しかった層では、出生児の体重が少ないことがわかった。体重が軽いだけではなくて、やせているという状況である。(図17)
このようなことから、胎児の良好な発育のためには、妊娠初期だけに限らず、中期・後期にかけても十分な量の葉酸摂取が望ましいと考えられる。
*本研究は厚生労働科学研究事業子ども家庭総合研究の一環として実施された。
図17 妊娠中・後期のホモシステイン値の変化と出生児体格ponderal指数・・・赤ちゃんの体格指数、
体重/身長の3乗。小さいとやせているということになる。
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Column 妊娠中に控えるべき食べ物は?
葉酸含有量の多い食品にレバーがある。しかし、妊娠初期にはレバーを過剰に摂らない方が良い。レバーには、過剰摂取で胎児奇形を引き起こすと言われているレチノール(ビタミンAの一種)の含有量も多いのだ。
一方、アレルギーの心配をされがちな卵は、妊娠中にあえてやめる理由はない。アレルギーを起こす可能性のある食物を妊娠中に控えても、卵アレルギーをはじめとした食物アレルギーを完全に予防することはできない。特に、アレルギー疾患の素因のない母親が卵を控えても、赤ちゃんの発症予防にはあまり有効ではないと報告されている。また、卵はタンパク源でもあり、卵に含まれるコレステロールも重要な栄養素なので、40週という限られた妊娠期間に、常識的な範囲内で摂取するならば、心配する必要はないと考えられる。
■講演「世界的視野に見た葉酸摂取および脳・脊髄奇形発症の現状」
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授
ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)教授 大井 静雄
1.二分脊椎とは
二分脊椎の発生時期と病態
受精し、妊娠してから通常40週を経て出産となる。その過程で胎生第4週には神経管が完成して脳ができ上がり、脊髄もでき上がる。ちょうどジッパーを閉じるように、背中の胸椎のあたりから上下に閉じられていく。それが何らかの関係で、頭側か尾側で閉じないのが神経閉鎖障害である。(図18)
閉鎖障害が起こると、その先が完成しないままに出生となる。頭側で起こるものが無脳症・外脳症と呼ばれる状態で、尾側の脊髄の末端で起きるのが二分脊椎である。広い意味での二分脊椎にはいろいろなタイプがある。 100人に1人といわれる皮膚洞は、皮膚の閉鎖が完全でないもの。脊椎に部分的欠損がある脊椎披裂は10人に1人ほどに見られるが、脊髄そのものは保護されているので、何ら障害はない。また、脊髄を覆う硬膜が完全に癒着していないものが硬膜披裂。そして、脊髄を保護する膜と脊椎とが閉鎖しておらず、神経組織が覆われていないものが脊髄披裂である。狭義での二分脊椎は、1万人のうち数人に達するこの脊髄披裂のことを中心に差す。その他、くも膜が脱出した髄膜瘤や嚢胞が形成された脊髄嚢瘤なども含まれる。
脊髄披裂は披裂部分より下の神経機能が発達できずに下半身の麻痺・変形、感覚障害、排尿・排便障害が発症する。さらに、脳の中に水頭症ができたり、キアリー奇形という呼吸中枢である延髄、運動中枢・運動の支援器官である小脳が脊椎管に落ち込むという病態を伴うこともある。
診断と治療の方法
日本で主に行われている超音波検査法で、二分脊椎がわかる時期というのは極めて限られている。しかし、90年代の後半に高性能のMRIが導入され、妊婦が胎動を感じる21週頃になると、胎児の動画を見ることができ、四次元の世界にまで発展させることができるようになった。これにより、二分脊椎の胎児の股関節、膝関節などがすべて動かないことが目に見える。 (図19)
脊髄が覆われないままに生まれてくるので、生後24~48時間以内に閉鎖手術を行う必要がある。まず脊髄自体を縫合し、膜を閉じて、その保護構造をカバーして、最後に皮膚を閉じる。そのための皮膚、骨、脊髄を保護する硬膜も開発されている。
この四半世紀、日本では急上昇の傾向がある二分脊椎だが、先進諸国での発生は著しく減少している。 (図20)
その理由の1つに、中絶の法的な許容期間が考えられる。日本では21週と6日までであるが、フランス・ドイツを中心とするヨーロッパ先進諸国では全妊娠期間、アメリカの多くの州でも26週まで、中絶が許容されているということである。こういった社会背景が二分脊椎の出生頻度と関係あることも否めない。
2.二分脊椎の原因と葉酸
葉酸の欠乏も二分脊椎の一因
二分脊椎の原因については、過去120年間に多くの研究家が様々な学説を発表しているが、見解の一致は得られていない。
しかし、葉酸が欠乏するとこの病態になることが解明された。二分脊椎の原因は葉酸の欠乏しかないわけではないが、葉酸を十分に摂取することで7割ぐらいまでは予防できることがわかってきた。学説では、葉酸の補給で最大数十%の効果を見込めるといわれている。したがって、予防医学に目標を置いて病態解析が進んでいる。
1991年医学研究の論文雑誌『LANCET』に発表された7カ国33のセンターで行った調査がある。他のビタミンを摂取する・しないに関わらず、葉酸(Folic acid)を摂取していないグループの二分脊椎発症率は、摂取したグループの10倍近かった。(図21)
アメリカではこれがきっかけとなって、葉酸の健康強調表示と強化食品の認可、穀物製品の強化食品には葉酸を添加することの義務付けなど、大規模な行政上の進展がみられた。(図22)
妊娠と葉酸に関する社会啓発
日本の行政はアメリカに追随する形で動き出したものの、未だ葉酸摂取の重要性が浸透していないのが現状である。
日常的な食品にも葉酸は含まれているが、葉酸を含む食品の改善によって、さらに摂取しやすくなると予測される。妊婦にはもちろんのこと、国民全員に葉酸摂取の必要性の意識を広めたい。これによって、二分脊椎の予防医学が進むのではないかと期待している。
3.日本が果たす役割
日本がリードする新生児医療
二分脊椎に関して、予防では遅れをとっているものの、日本は新生児医療の分野では世界一のデータが示されている。二分脊椎の手術ができる施設が7箇所あり、胎内出生前画像診断でも先進諸国をリードしてきた。
ドイツは最先端の脳神経外科手術等が行われる国であるが、小児医療の遅れがある。小児医療の施設は少なく、脳神経外科医が二分脊椎を治療できない状態で、小児外科医、一般外科医が治療している現状にある。私が教授をしているドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所では、2003年に小児脳神経外科部門が立ち上がった。現在では胎内で二分脊椎と診断されると、インターネットでカンファレンスをやりながら出生日を決め、私が到着すると翌日に手術をするという方式をとっている。
このように、二分脊椎の医療を諸外国に示し、小児医療の人材を育成するべく交流していくことは、日本の役割と考えている。医療の最先端の知識を持って、各国に二分脊椎のための医療センターを設けようというのが日本からの発信でもある。
また、最先端の医療として、脳の信号をコンピュータ化して、義手・義足に伝え、動かすというサイボーグ医学が盛んになってきた。こういった二分脊椎の医療の希望と予防医学を、広く、大きく、育てていきたい。
図23 ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所・小児脳神経外科
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■講演「葉酸たまごの開発」
ファーマフーズ研究開発部主席研究員 杉山 文美
1.葉酸たまごの開発
通常の卵の約3倍の葉酸量
株式会社ファーマフーズは、医薬(pharmaceutical)と食(foods)の融合を目指し、健康維持に役立つ機能を明確に持つ食品素材について展開、研究をしている。
身近な食品を用いて、安全で安心な食品素材を開発しているが、特に卵は21日間温めるとヒヨコにかえることから、生命に必要なものがすべて凝縮して入っていると注目した。しかも、卵は日常の食卓に様々なメニューへと姿を変えて登場する食品であり、完全栄養食品とも言われている。そのようなことから、卵から葉酸を毎日簡単に摂取できないかどうかと、葉酸たまごの開発を行った。
試行錯誤の末に開発されたバイオ飼料「ファーマバイオミックス」を給餌することで、葉酸たまごの生産に成功。葉酸たまごは、通常の卵に入っている葉酸量の約3倍、約70µgの葉酸を含んでいる。そのためカテゴリーは栄養機能食品である。(図25)
卵は日常生活で継続して食べる食品なので、この葉酸たまごで毎日無理なく葉酸を摂取できるであろう。
葉酸たまごの開発に関しては、農林水産省が助成機関となっている研究開発等支援事業の支援を受けて、2年にわたって研究してきた結果である。
2.葉酸たまごの特色
ヒトの体内に存在するのと同じタイプの葉酸
葉酸たまごに入っている葉酸の約90%以上が、“5-メチルテトラヒドロ葉酸”の形で存在している。5-メチルテトラヒドロ葉酸というのは、通常のサプリメントなどに入っているものとは少し違い、ヒトの血中にある葉酸と同じ形である。つまり、葉酸たまごに入っている葉酸は生体に近い形の葉酸なのである。(図26)
熱安定性が高い
卵は日常の生活で加熱調理をすることが多いので、加熱後も葉酸が残っているか調べたところ、ほぼ2時間煮ても80%以上の葉酸が残っていることがわかった。これはホウレンソウをゆでたときの葉酸残存率(12.9%)と比べて、かなり高い数値である。(図27)
加熱しても葉酸が壊れにくい葉酸たまごは、葉酸含有量の高い野菜等と同量、もしくはそれ以上の葉酸の摂取を可能にする食品とも言える。また、家庭料理だけでなく、プリンやエクレアのようなお菓子等、家庭以外でつくられるものにも応用し利用することで、女性の葉酸摂取量の底上げになると考えられる。
少しでも多くの方に広めたいので、葉酸たまごとわかるようなシールを一個一個に貼り、2006年4月より有名百貨店等でプレ販売を開始している。
■「今後の活動について」
葉酸と母子の健康を考える会事務局 岩城 紀子
1.手軽に摂取できる環境づくり
葉酸をめぐる米国での状況
米国では、FDAによって1998年にすべての穀物製品の強化食品には葉酸を添加することが義務付けられた。そのため、すべてのシリアル、コーンフレークに葉酸が強化され、パッケージの栄養成分表に「Folic Acid(葉酸)」と大きく明記されている。とても手軽に葉酸入りの食品を入手できる環境がある。このことが葉酸摂取の重要性を広め、女性の1日400µg摂取を大きく支えている。日本でもこういった環境をつくり出すことが、葉酸の摂取を普及する上で非常に大切なことだろう。(図28)
2.今後の活動について
3つの軸を中心に活動
本会が実施した最新の調査によって明らかになった現状課題の打開に向けて、「葉酸と母子の健康を考える会」では3つの軸を中心に活動していく。①妊婦とすべての女性にむけて、葉酸の重要性を積極的に啓発、②食品やサプリメント等の具体的な摂取方法を提供、③栄養指導や食事指導の現場への支援活動である(図29)
具体的な活動
「葉酸と母子の健康を考える会」は、語呂の良い4月3日を「葉酸の日」と制定した。これは日本記念日協会にも認定されている。これから毎年4月3日のタイミングに、葉酸の認知や現状を継続的に調査し情報を発信していく。(図30)
学術研究者と専門家のネットワークづくり、民間企業が主体となるPRキャンペーンへの協力、このキャンペーンの売り上げの一部を母親の教育や二分脊椎患者の支援などに充てる、というような活動をしていくことで、よりよい循環をつくり、社会に葉酸を普及していきたい。
厚生労働省による葉酸摂取の呼びかけの後も葉酸の認知・摂取が進まない現状を踏まえ、今後は民間企業、流通の方々にも会の趣旨を十分にご理解の上、ご賛同いただきたい。そして、葉酸が入っている商品・食品を生活者が容易に手にとれる社会的な環境、ネットワークを目指す。こういった活動をもとに、葉酸の認知・理解を促したい。
民間企業を主体としたキャンペーンについて
5月30日~4月13日の母の日まで「430(葉酸たまご)でよいお産キャンペーン」が行われる。妊婦やすべての女性に向けたPRイベントの実施や葉酸たまご売り場の拡大と店頭啓発活動である。多くの方が葉酸に触れるいい機会になればと考えている。(図31)
葉酸は、妊娠準備期の女性にはとりわけ大切な栄養素。本会の活動を通して、少しでも多くの女性たちに葉酸の重要性をお伝えして、二分脊椎や出産におけるリスクを低減したい。
【登壇者プロフィール】(敬称略・登壇順)
◇ 大井 静雄
東京慈恵会医科大学脳神経外科教授
東京慈恵会医科大学病院総合母子健康医療センター小児脳神経外科部門教授
ドイツ・ハノーバー国際神経科学研究所(I.N.I)脳神経外科教授 兼任
国際神経内視鏡連盟(ISGNE/IFNE) 理事長 (2007~)
日本小児神経学会理事(2001~)
日本水頭症治療シンポジウム(JAH) 会長 (2005~)
日本医学英語教育学会(JASMEE) 理事長 (2004~)
1973年、神戸大学医学部卒業。
ノースウエスターン大学医学部脳神経外科を経て神戸大学医学部脳神経外科講師、ハノーバー医科大学ノルトシュタット病院脳神経外科永続客員教授、東海大学医学部脳神経外科助教授を経て現職に至る。
専門は脳神経外科(特に小児脳神経外科、二分脊椎水頭症、低浸襲性手術、医療機器開発、脳ドック)
◇ 瀧本 秀美
国立保健医療科学院生涯保健部母子保健室室長
1991年、東京医科歯科大学医学部卒業。
産婦人科医として公立病院に勤務後、国立健康・栄養研究所の母子健康栄養部に研究員として入所。健康・栄養調査研究部等を経て、現職に至る。
共著に「子どもと食事のアレルギ-Q&A」(第一出版)等。
◇ 杉山 文美
株式会社ファーマフーズ研究開発部主席研究員
2003年、奈良女子大学大学院人間文化研究科生活環境学専攻修了。
同年、株式会社ファーマフーズ研究開発部に入社。現在に至る。
研究テーマは葉酸高含有たまごの生理機能評価。